「『ソライロスイッチ』」の外伝的、まひるが小学二年生くらいの時の話。
こんな体験してたら蒲原なんて不思議でも何でもないですね。
とうとう屋根が腐って落ちたとなりのボロ家は
もちろん将来のソライロスイッチ店舗ですよね。(聞くな)
あるあめふらしのおはなし
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よくはれたある日のこと。
ひとりでおさんぽしていたまひるは不思議なものをみつけました。
ふたつあるブランコの片方がちいさく揺れていて、きいろい傘が上に浮いていて、傘のしたでは雨がざんざかふっています。
まひるは傘のまえにまわりこんでみました。
するとどうでしょう、宙に浮いているように見えた傘のしたでは、うっすらと透きとおった半透明なこどもがブランコをこいでいました。
ふつうならこわくて逃げだしてしまうようなところですが、まひるは警戒心がちょっとよわすぎるところのある女の子だったので、とりあえず話しかけてみました。
「こんにちは」
「こんにちは」
すごくふつうに会話がなりたちました。人生なにごとも挑戦です。
「あたしまひるっていうの。あなたは?」
「ぼく、あめふらし」
「嘘。あめふらしっていうのはぶよぶよぬとぬとしててすっごくきもちわるい海の生きものだよ」
間のわるいことにまひるは『実録 海の生物大全集〜萌える生物から怖気立つ生物まで〜』といういかがわしい名前の図鑑を読破したばかりだったのです。
「うんそうだね。でもぼくはそれとは違うあめふらしなんだ」
「…? それってどういうあめふらし?」
「ぼくのまわりだけ雨がふってるでしょう」
「うん」
「これはぼくがふらせてるんだ」
「…ああ、だから『あめふらし』なの?」
「そう」
ふたりがなかよく話しているあいだに何人もの人がブランコの脇を通りすぎていきましたが、
三分の一ほどの人はまひるのことを不気味そうな目で横目にしながら通りすぎていきました。
三分の一ほどの人はまひるのことを気の毒そうな目で横目にしながら通りすぎていきました。
のこり三分の一ほどの人はつとめてまひるのことを見ないようにして通りすぎていきました。
ほんのすこし、小さなこどもたちはまひるたちのことを不思議そうな目で見ながら通りすぎていきました。
「…さてと、もうすぐ雨がふるから、帰ったほうがいいよ」
「どうしてわかるの?」
「ぼくがふらせてる雨が、空にうつるんだよ。ほら、くもゆきがあやしいでしょう」
「ほんとだ」
「今日はぼくがふらせてる雨がけっこうどしゃぶりだから、どしゃぶりになるよ。びしょぬれになるまえに早く帰りなよ」
まひるはあめふらしと話しているのがけっこう楽しかったので帰るのは残念でしたが、びしょぬれで帰ったらたぶんおかあさんに怒られます。それはできれば回避したかったので
「…うん、じゃあ今日は帰るね。またあそぼう、あめふらしくん」
立ちあがってぱたぱたとおしりをはたくまひるを見ているあめふらしはすこしさみしそうでした。
「また明日ね!」
手をふりながら走っていくまひるに、あめふらしはさみしげに手をふりかえしました。
「うん、…じゃあね。」
あめふらしの言ったとおり大雨になりました。また明日、と言ったけれど明日も雨はやみそうにありません。
となりのボロ家の屋根がとうとう腐って落ちました。
雨は二日してやっとやみました。
走っていったまひるをむかえたのは、からっぽのブランコの上に浮かんだ小さな虹でした。
一日待ってもあめふらしは来ませんでした。
そのかわりに、小さな虹が一日じゅう浮かんでいました。
それはとてもきれいでしたが、ブランコの脇を通りすぎる人たちはだれもその虹に目をとめませんでした。
ほんのすこし、小さなこどもたちは虹とまひるを不思議そうな目で見くらべながら通りすぎていきました。
あるあめふらしのおはなし。