「夢いらんかねー。夢やすいよー」
「(…うさんくせぇじじいだなオイ)」
「ジジイとは何じゃ!わしゃまだ齢九十じゃわい!」
「充分すぎるくらいじじいだ!つーか心の声に反応すんな」
「最近の若いもんはちーとも年寄りをいたわらんで」
「自分で年寄りって言ってんじゃん」
「年寄りとじじいは違うんじゃ」
「何が」
「全く最近の若いもんはちーとも年寄りをいたわらんで」
「はいはい悪かった悪かった私が悪うございました」
「こいつを買ってくれたなら許してやらんこともないがの」
「………色々と言いたいことがこの一瞬で大量に吹き出てきたがまあ寛大な心で黙っといてやるよ」
「150円じゃ」
「人の話聞けよ」
「150円じゃ!」
「……………。はいよ」
「まいど。えー…夢いらんかねー、夢やすいよー」
「品物よこせよ!」
「最近の若いもんはヒステリックでいかんな。ほれ」
「どんなに老成して人格の出来た人間でも今のは怒るだろ。じいさんこれ何のビン詰め」
「宇宙じゃ」
「は」
「お前今何だこのモーロクジジイとか思ったじゃろ」
「貴様テレパスか」
「やーい、ひっかかった〜」
「…………………………」
「ちなみに今は小学生かこのジジイとか思っとるじゃろ」
「(もう何も言うまい)」
「その壜の中身は宇宙じゃが」
「無視かよ」
「いくら宇宙じゃからといって決して開けてはならん…って言っとるそばから開けとるぞこのガキは!」
「ガキで悪かったな。 …うわ!?」
*
「どうじゃ、宇宙じゃったろう」
「まあな」
「冷めとるなお前」
「このわずかな時間のあいだに色々な経験を積んだからな」
「じゃ金の話じゃが」
「人の話聞けよ」
「150万いただこうか」
「150円じゃなかったのかよ!?」
「お前が壜を開けてしまった分のオプション使用料占めて149万9850円じゃ」
「暴利をむさぼってんなじいさん」
「わしゃこの道80年のベテランじゃ」
「ろくな死に方しねえなアンタ」
「さあ150万」
「高校生(をしていてもいいような年齢の邦人男子)にそんな大金払えるかよ」
「お前さてはプー太郎か」
「一瞬なんとなくものすごいジェネレーションギャップを感じたぜ。あんたやっぱりテレパスだろ()内まで分かるとは」
「それなら考えてやらないこともないが」
「人の話聞けよ」
「わしの店で働くというのはどうじゃ」
「ヤダ」
「即答じゃな」
「ギネス長寿記録を作った後自宅のふとんの上で孫曾孫玄孫に囲まれて大往生するのが夢なんでね」
「わしの店で働くというなら」
「人の話聞けよ」
「さっきの技術を教えてやらないこともないがの」
「さっきの?」
「さっきの」
「って何だよ」
「壜詰め宇宙(150円)」
*
もしこのとき『さっきの技術』について聞かなかったら、俺はきっとあのころの夢を叶えられたに違いない。
すなわちギネス長寿記録を作った後自宅のふとんの上で孫曾孫玄孫に囲まれて大往生。その夢がもはや叶うことがないのは、今の俺が誰よりも良く知っている。
じいさんに会ったとき、すでにもう引きずり込まれていたのだ。たぶん。めくるめく不可思議科学と行商の世界へと。行商は嘘だ。
まあその後色々とじいさんに仕込まれて賢くなって(比喩でも嘘でもなくて)色々と変なものを作った。
その中でも個人的に一番のヒット商品、コンセプトは『押すだけで雲の上の青空が見える!』などという超画期的かつ胡散臭さ300%なスイッチ。
いまだに仕組みがわからない。
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